猛烈に寒い本
- 旅行記は重かろうが軽かろうが好きなのだけど、極寒地の旅行記を好んで読んでいた時期がありました。超絶寒い場所を行き来する人々の冴えた感覚が好きなのでしょう。トラベラーは例外なく内省的になり、防寒具に交通路に真剣になるのもよい。
- アムンゼンの伝記 僕の極地好きの原点はどうも小学生のころ繰り返し読んだこの本にあるんじゃないかと。世界で始めて南極点に到達したアムンゼンの伝記です。子供のころからなぜか極地萌えのアムンゼンは、寒さに慣れるために親が止めるのも聞かず真冬に窓をあけて薄着で寝る、という鍛錬法をしていたそうで、それが衝撃でした。資金集めを経て南極点に到達するまでの冒険を書いているのだけど、ドリトル先生航海記に似ていると思ったのを覚えています。今思うとぜんぜん違うのに。
- 作者: みやぞえ郁雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1985/06
- メディア: 単行本
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- アラスカ物語・新田次郎 流氷に取り囲まれた船から脱出して一人アラスカを横断し救援を求めにいく日系人のお話。主人公はもともと古風で大和健児的なところがあるのだけれど、オーロラをみて気が狂いそうになったり食料がなくなって極限状態になったり、ともかくその内省っぷりが萌えです。最終的にはアラスカエスキモーの移住を取り仕切ったり、アメリカインディアンと領土の交渉をしたり。モーゼのような人です。
- 作者: 新田次郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1980/11/27
- メディア: 文庫
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- おろしや国酔夢譚・井上靖 日本船がうっかり帝政ロシア時代の北方領土に漂着してしまい、なかなか日本に返してもらえない、という話。女帝エカテリーナに日本に返してもらう許可を得るためにウランバートルあたりから(わざわざ!)ペテルブルグまでトナカイのそりでいくのであるが、ロシアを相手にいろいろな困難が次々と降りかかるわけで。この人母をたずねて三千里のマルコの次くらいにかわいそうですが、あんまり悲壮な感じがしないというか・・・主人公強いんだねきっと。
- 作者: 井上靖
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1974/06/25
- メディア: 文庫
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- パタゴニア・椎名誠 椎名誠の旅行記というのはどうにもマンガちっく*1で、まあ面白いとはおもうのだけど、いかにも心に残らない。この人こんな本ばっかり書いてよくストレスたまらないよなぁというのが留保ない感想なのだけど、このパタゴニアはなぜか心に残る部分がある。ビーグル水道というパタゴニアの水道をチリの軍船で進み、南極に程近いチリ軍の観測所(?)に行く、という話なのだけどれど、まず水道の様子がなんとも壮大荘厳であること、厳しい自然の中を進む軍船の閉塞感、そこに従事する軍人のやれやれ感がいろいろマッチしていい感じの内省感です。あと、創作なのか演出なのか実際の感情なのかわからないけれど、椎名誠自身が奥さんとの関係を内向きに見つめなおす感覚が全体をうまく覆っていて、彼のほかの旅行記にはちょっとないような情緒感があります。
- 作者: 椎名誠
- 出版社/メーカー: 情報センター出版局
- 発売日: 1987/04
- メディア: 単行本
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- トゥバ紀行・メンヒェル・ヘルフェン この本は昔も紹介したような気がするけれど、まあいいや。ロシアと中国のハザマにパワーゲームの結果奇跡的に数十年間だけ独立が成立した遊牧民族国家の紀行。いろいろなラッキーが重なってその国に長期滞在できた唯一の西側の人間(冷戦時だから)が作者の貴重な文章です。生活様式や文化、文字、食料、政治、ジャーナリズムとさまざまな社会的側面が記録されているのも面白い。この本は別に内省的ではないですが、もともと国の形を必要としていない人々が、政治的祭り上げによって国を与えられ、そしてそれがやはり自分の意思とは無関係に政治的に磨耗し、最終的には政治的にも文化的にも民族的にも分解吸収される、という日本にいると感じようのない感覚が味わえます。くだらないたとえをするならば、まったくやる気のない高校生のクラスがお化け屋敷を企画したら天然ボケでわけのわからないものがいつのまにかできあがり、そしてそれがあっという間に崩壊するというような。ちなみに中国が領有を主張していた関係で、今は台湾がその領有を主張していたりするらしいw まだ買えると思うけど、もう絶版。
- 作者: メンヒェン=ヘルフェン,Otto M¨anchen‐Helfen,田中克彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/06/17
- メディア: 文庫
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- サハリン島・チェーホフ なんともとりとめのない本で、決してお勧めはしないけれど、いろいろいろいろ印象的ではあります。いわゆるロシア的なかにから何まで、呆然とするほどくどい会話や、サハリンの(まったく不毛な)開拓地に暮らすあきらめに満ちた農民のすさんだ生活が、延々と記述されています。長くて長くて、すごく不毛で、読んでるうちにこっちが内省的になる。たぶん絶版なので図書館で。
チェーホフ全集〈12〉シベリアの旅 サハリン島 (ちくま文庫)
- 作者: アントン・パーヴロヴィチチェーホフ,松下裕
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/07/01
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- カナダエスキモー・本多勝一 イヌイットの村に本多勝一がガチンコで乗り込んでテントに長期滞在し、その生活様式やエスキモー独特のものの考え方を詳述。いつもながら結構分析的でアカデミックです。わりと初期の作品で、極地三部作(あとの二つはニューギニア高地人とアラブ遊牧民)は全部読んで損はないです。
- 作者: 本多勝一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 1981/09
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- なぜこのエントリを書いたかというと、今神々の山嶺を読んでいて、久しぶりにいかに自分が極地ものが好きかを思い出したからです。
- 作者: 谷口ジロー,夢枕獏
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/12/15
- メディア: コミック
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*1:マンガが心に残らないという意味ではない