Crypto Alarm Basic(CAB方式)について三度考えてみる
- 「解読不能は数学的に証明済み」、RSAを超える新暗号方式とは − @ITによって提起される問題についてもう少しだけ考えて見ます。Crypto Alarm Basic(CAB方式)について再び考えてみる - トビハネインディアンと解読不能な公開鍵暗号Crypto Alarm Basic? - トビハネインディアンの続きですが、技術的な話ではなく、暗号技術が持つ歴史・社会的側面から考察しています。
- サイモン・シンの「暗号解読 (The code book)」とかスティーブン・レビーの「暗号化 (Crypto)」を読むとわかる話ですが、暗号という技術自体は長らく軍事利用と深く結びついており、1970年代までは技術者や研究者が暗号技術についてオープンな議論をもてなかったようです。当時まだ暗号化法そのものを秘密にすることで暗号の安全性を担保していたこと、また軍やNSAが解読できない暗号化技術の出現を警戒していたこと、などが理由らしいですが、ともかく軍以外の組織や個人が、自力で秘密の通信を行うことを軍が許さなかったことから、暗号研究という分野そのものが技術者や研究者による健全な発展とは程遠い位置にあったわけです。
- 70年代後半までは、二人の個人が秘密の通信を安全に行うことが出来なかったわけですが、その後ディフィーとヘルマンが公開鍵暗号の概念を考え出し、リヴェスト(R)とシャミル(S)とエーデルマン(A)が実際の公開鍵暗号であるRSA方式を発明したことから、大学や民間の暗号研究がスタートします。かつては米政府が、政府自身が解読できない暗号の出現に危機感を感じ、研究を邪魔する様々な介入を行っていたものの、時代の趨勢には逆らえず、現在では暗号理論の自由な研究と利用が盛んになっているわけです。
- そのため、解読方式を秘密にすることで、その安全性を担保してはならない、という原則が浸透したのはそう昔の話ではないです。翻って現在では、暗号技術の提案は非常にオープンなものになり、標準技術はアルゴリズムの提案に始まるコンペ形式で選定されています(その選定基準が技術の透明さに比べて不透明だという批判はあるようですが)。もう少しいうならば、このような透明さを、ディフィー・ヘルマンを皮切りとしたあまたの暗号研究者が勝ち取ってきた、と言えると思います。sshやhttpsはすべてこのような成果の上に成り立っています。
- このような経緯があるため、肝心の暗号アルゴリズムが公表・評価される前から、報道において以下のように評価されるのは、時代に逆行するような不愉快さがあります。
今のところCAB方式を正当に評価できる方法や機関は存在しない
記者の手元にはクリプト・ベーシック社の事業計画書があり、そこに暗号方式の概要が書かれている。(中略)ただこれ以上、記者が書いても恥の上塗りにしかならないので、後は専門家に委ねたい。
- 食の安全と比較して考えるとわかりやすいと思います。
- 「画期的においしい餃子が出来ました。原材料は秘密だし、その安全性を正当に評価できる方法や機関は存在しませんけど」
- 「餃子の原材料は秘密ですけれども、そのレシピはワタシの手元にあります。ただ中身はよくわからないので、その性能と安全性は後でコックに聞いておきます。」
- といわれても、そんな餃子はちょっと食べる気になれません。情報の安全を守る暗号技術は、ノウハウの秘匿が許される液晶パネルや半導体の製造技術とは性質が異なるのです。
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Crypto Alarm Basic(CAB方式)について再び考えてみる
- 「解読不能は数学的に証明済み」、RSAを超える新暗号方式とは − @ITの続報“解読不能”の新暗号の記事について、いくつかのお詫び − @ITが@ITから出たので、Crypto Alarm Basicについてもう一度考えてみる。とりあえずこの二つの記事から、主観を抜いて、事実(と思われる)部分だけ抜き出して、並べ替えてみた。
- 計算機上で実際に実装した上で、安全性を保障する必要がある暗号アルゴリズムにおいて、無限を持ち出すのはやはりおかしい。これは、無限と言っていいほど多数の、という概念を、考案者が素人にわかりやすく表現しただけ、と見た。Haskellの無限リストみたく、有限の計算資源で無限を扱う方法も無くはないが、多分今回は関係ないでしょ。無限の概念の濫用はサイエンスのマナーに反するので、サイエンティストは無限という言葉の使用には敏感なはず。
- そういう理解のもとで考えると、どうもカオス暗号のことを言っているような気がする。「無限(といえるくらい大きい)集合から鍵となる関数をピックアップ」する、というのはカオス源となる関数をあらかじめ決めておいて、そのパラメータを鍵として考えているということでしょう。たとえばロジスティック写像だったら関数形がx=ax(1-x)で、aとxの初期値を鍵とする、みたいな。パラメータが有理数だったら確かに無限個あるけど、計算機上では浮動小数点で表現するわけだから、まあやっぱり有限だよね。
- さてそう決めつけて考えると、以下のようなハイブリッド暗号を考えることができる
- このスキーム自体はたぶん全然新しい話じゃなくてカオス暗号の一般的な枠組みだと思われます(良く知らないけど)。このスキームの弱点は二つある。
-
- カオス関数から吐き出される値が一様ランダムであることは証明されてないこと。onetime padを使っているので情報理論的に安全にみえるけれど、実際はそうじゃない(かもしれない)。かもしれないからこそ、「ランダムな数列生成ではNIST(米国立標準技術研究所)で使われるテストで検証済み」として安全性を担保しているのだろう。
- 一方このスキームのいいとこはとにかく鍵生成が高速なとこ。カオス関数の計算は、巨大素数をぶん回すような計算は不要で、ごく単純な代数的計算ですむし、暗号化・復号化部分は単なる排他的論理和だ。これなら「10万ビットの鍵でも1秒未満で生成でき」て、「4MBほどある聖書のテキストを、その聖書に含まれるビット数と同じ長さの鍵を使って暗号化するのに、一般的なPCでも1秒もかからない」ってのも納得です。
- 実際にはカオス暗号ってのは理論の世界ではいまのとこ中心的に議論されているとはいえなくって、今後にこうご期待、というような立ち位置ではあるけれど(see 信頼性の低い暗号アルゴリズム - Wikipedia)、別にIND-CPAだとなんだといわなくても、速くて使い勝手がいいんだったら、用途を選んでどんどん使ったらいいと思う。ゆっていいのかどかわからないのでゆわないけれど、どっかの電機メーカもカオス暗号をつかった映像配信のシステムを試作してたようだし。
- 実際にはこれくらいの枠組みで、あのような大々的な成果を誇るってことは多分なくて、もっと画期的な発明があったのだろう。以下は単なる予想。
-
- 暗号に(どのような点でかは知らないが)すごく良く適したカオス関数の群れを発見した
- 鍵交換アルゴリズムとカオス関数の間になにか良い性質があって、それがスキームの大幅な効率向上をもたらした
- このぐらいまで証明する必要があると思う。こうだったらかなりの大発見でしょう。でもそれはやっぱりないよな。。。
- と、つらつら書いてきたけど、本当にこの@ITの記事で納得できないのは、暗号系自体の説明や扱いではないんですよ。長くなったから続きはまた明日。
解読不能な公開鍵暗号Crypto Alarm Basic?
「解読不能は数学的に証明済み」、RSAを超える新暗号方式とは − @IT
- 考案者によると
「われわれの開発した暗号方式は、数学的に解読が不可能であると証明されています」
まっじでーー??と思い、いろいろ論文探したんだけど、ほんとに見つからないんだよ。
- 「数学的に解読不可能」というのがどういう意味なのかはさておき、「情報理論的に」解読不可能な暗号としてワンタイムパッドがずいぶん昔(1940年代)にかの有名なシャノンに考案されている。やりかたは極めてシンプルで、たとえば送信したいメッセージをM=HELLOWORLDとすると
-
- Mと同じ長さの秘密の乱数R(例えばR=DKLKHGRHEP)を生成し、送信者と受信者で共有する
- 送信者:C[i] ← M[i]+R[i] mod 26 としてCを受信者に送信。 ただし M[i],R[i],C[i]はそれぞれメッセージ、乱数、暗号文のi文字目とする。
- 受信者:M[i] ←C[i] - R[i] mod 26
- 情報論的に安全というのは神様(=無限大の計算能力を持つ解析者)ですら暗号文CからメッセージMを解読できない、という意味です。ようするにワンタイムパッド=最強の暗号です。ただ乱数Rが一回しか使えないうえに、メッセージ長=鍵長なので、まるで実用的ではないわけです。
- シャノンが示したのはこの情報理論的に安全な暗号はワンタイムパッド以外にはない、ということです。これ重要です。この暗号がワンタイムパッドでないならば、この暗号は情報理論的に安全な暗号ではなく、計算量的に安全な暗号なんです。計算量的に安全というのは、ぶっちゃけていえば、神様ほどではないけれど、ものすごく頭のいい人(あるいはコンピュータが)ものすごい時間をかけても、100年200年じゃ解くことはできない、というような概念です。
- 普通に考えれば新しく考案されたこのCrypto Alarm Basicも計算量的に安全なものなのだろうと思うわけですが(量子コンピュータや分子コンピュータで実装されているわけではないので)、@ITの記事には
コンピュータの計算能力が爆発的に上がっても、あるいは量子コンピュータが実現されても、それでも「解読不能」と言い切れるのがCAB方式の強みだ。
とある。ひょっとして情報理論的に安全で、かつワンタイムパッドより優れた方式を発見したということでしょうか??
入山博士はデモンストレーションで一般的なノートPC2台を使って映像ストリーミングを実演。数MbpsのビットレートのMPEG映像を8ギガビットと非常に長い鍵を使って暗号化し、サーバ・クライアントで送受信してみせた。
ともあります。ここにも8ギガビットと非常に長い鍵を使って暗号化し、とワンタイムパッド的な方式を想像させる記述がありますが、こんな長い鍵を使える理由がよくわからない。 ほんとにワンタイムパッド的なのなのだとしたら、10MBのデータをAさんに送るためには、10MBの鍵をあらかじめオフラインでAさんに送っておく必要があるのです。なぜRSA等をつかわずにオフラインで送るかといえば、そこでRSAを使った時点ですでに情報論的安全性が保障されないからです。いったいどんな方式なんだろう。。。
- また、
例えば、xのm乗というのも1つの関数ですし、2xも関数です。実際には逆関数の計算が極めて難しい関数の集合を利用していますが、こうした関数からなる無限集合から鍵となる関数をピックアップします。盗聴者の探索しなければならない鍵空間は無限大ですから、鍵を推定できる確率はゼロです」(大矢教授)。
- 鍵を推定できる確率はゼロ、と気になることが書いてあります。関数を鍵として使うってのはどういうことかこの文面からはよくわからないけれど、まあそれはいいとして、無限集合から一様ランダムに鍵をとってきて使うんだとしたら、鍵長も無限大になりうるんだよね。このとき無限大の公開鍵を転送するコストは無限大だから、意味がないんだよね。無限大のサイズの鍵を使えば確かに情報理論的に安全な暗号もできるだろうけど、それって別にワンタイムパッドよりいいってことにはならないんだよね。これもよくわからない。
- そしてもう一つの謎は、
CAB方式の将来性に着目し、実験実装を行ったのが2006年。それから約2年間、学会発表やメディアへの公表、特許申請などは一切行わず、さまざまな用途に合わせたプロトコルの開発を進めてきたという。東京大学理学部を卒業後、米ロチェスター大学大学院へ進んだほか、ローマ大学、ハイデルベルグ大学など欧米の大学から招待を受けてきた大矢教授だが、その行動も欧米流だ。
「学会で発表をして名誉だけを受けるという選択肢もありましたが、われわれは会社にしました」(大矢教授)。
- これのどのへんが欧米流なのかはよくわからないけれど(ココ、皮肉ね)、第二次大戦中ならいざ知らず、これは現代暗号の提案としては全く普通じゃない。暗号はどうやって解読するか、を秘密にすることで安全性を確保してはいけないからだ。もしこれを認めるとすると、解読法が公になった時点でその安全性が怪しくなるし、守るべきものが秘密鍵と暗号化方式の二か所になってしまう。弱点は一つでいい。
- 暗号は、解読方式を明らかにした上で、暗号学者や数学者が徹底的にその暗号を破ろうとして、それでもなお脆弱性がみつならなくて(あるいは脆弱性が許容範囲内であって)初めて標準化される。名誉がどうこう、というような筋のものではない。会社を作って、特許をとって公開し、その後安全性について公に議論する、というプロセスを踏んだとしたって、利益の独占は十分可能なはずだ。いまいち当事者の意図が読めない。
- @ITの中の人も暗号には詳しくないようで記述には矛盾が多いし、せめて論文か特許公開広報を公表してくれないと、なんともいいようがないです。
スペアリブの煮込みパスタでも作ってみなよ
- 久々の更新、作ってみなよシリーズ:スペアリブのトマト煮込みパスタのレシピです。スペアリブはライフワークとして追及している料理の一つで(もうひとつは青菜炒め)、ハワイ風ローストに始まり、中華風燻製、南乳煮込み、から揚げ、豆鼓蒸し、赤ワイン煮込み、と目につく料理は片っ端から作っては食べてみました。結局のところ、スペアリブはどう料理しても焦がさないかぎりおいしく料理できてしまうんですが、トマト煮込みパスタは手間もかからず一番手軽、というような気がします(燻製は二日かかるし...)。
- 材料(2人分)
- 以下手順
- スペアリブに塩・コショウをして30分放置
- 玉ねぎ、にんにく、ニンジン、セロリをみじん切り(同種の野菜は粒度をそろえる。てか俺はフードプロセサでやるけどw)
- トマトをみじん切り。こっちは包丁で。仕上がりを気にするなら種、皮は取っておく。俺は取らないけど。
- フライパンにオリーブオイルを厚めに敷いて、ニンニクをと玉ねぎ(そのほかみじん切り達)を入れ、中火。
- 玉ねぎははじめは放置でもいいけれど、しばらくしたら焦がさないようにしつこくかき回す。15分くらいするとしんなり茶色になってくるのでそれまで頑張る(重要)。水分が飛んでシパシパしてきたら、オイルが足りないのでカロリーは気にせず追加した方がいいです。ここでさぼると、ソースがすっぱくなったり、玉ねぎのツブツブ感が残って焼肉のタレみたくなったりして、よろしくないです。
- 玉ねぎが茶色になったらトマト投入して、水をお玉4杯くらいいれて中火。水は徐々に飛ばしていきます。
- 手持ちのスパイスを全入れします。
- スペアリブの表面の水分をペーパータオルで拭き取って、別のフライパンにオリーブオイルを敷いて、強熱します。煙が出てきたら、スペアリブの表面を焼き固める。全方向いい色で焼き付けますが、火を通す必要はありません。ただしこの手順を飛ばすと、できあがりが豚の角煮みたくなって、いまいち景気が悪い感じになります。
- さてこのスペアリブに小麦粉を振って焼くかどうかが問題です。
- カレーのようなとろりとしたソースにしたければスペアリブに小麦粉を振って焼くと良いのです。粉がルーの役割と果たすので、とろりとしてくれます。洋食風です。
- さらりとしたトマト感を活かしたければ粉は不要です。イタリア風です。俺は粉を振らないほうが好きです。特にフレッシュトマトを使った場合は粉しない方がお勧めです。
- スペアリブが焼けたら、表面の油をペーパータオルで簡単にぬぐって、トマトソースに入れ、気のすむまで煮込みます。最低45分、できれば2時間くらい。いまさらですが、薄手のアルミ鍋はよろしくないです。ルクルーゼや鉄鍋など保温の良いものがよいのです。
- ここで塩を入れて味を見ます。この段階では、ダシの出具合が分かるくらいのごくうす味で酔いのです。 きちっと味付けしても、どうせ水が飛んだりダシが出たりして味が変わるのでので無意味です。塩を入れすぎると、もう取り返しがつかないので、ごくかるーく。
- 煮込みつつ、表面に出た油やアクをとります。あんまり気にするとノイローゼになるのではじめの15分くらい気にすれば、あとは適当でいいです。
- 好みの野菜を入れるなら、この段階で入れます。水分が足りないようなら加えますが、入れすぎは禁物です。ソースがパチャパチャしてしまいます。かといってあんまり煮詰まると焦げます。悩みどころです。ドロリとスペアリブにまとわりつくくらいがよくて、ここで焦がしさえしなければ、美味しくできるのです。
- 煮込み終わりが見えてきたら、も一度味見をして塩をします。うま味の濃いパスタなので、ちょい強めでもいいですが、ここで強く効かせすぎると元に戻れなくなって水の泡です。慎重に。
- 煮込み具合を見計らって、パスタをゆでます。ディチェコのフェットチーネが圧倒的にお勧めです。普通の1.4mm,1.6mmなどでは物足りないです。ママーとかオーマイなぞはもっての他です。ここでケチケチするくらいなら、そもそもこんなパスタなぞ作らずに、タラコスパゲッティでも作ってればよかったのです。
- パスタがゆだったら、火はつけずにソースとあえます。このパスタの場合、フェトチーネが熱いうちにバターとあえて、ソースと別添えにしてもいいです。いずれの場合も、スペアリブをてっぺんに誇らしく盛り付けて、赤ワインで乾杯です。
- ちゃんとできると、スペアリブの繊維が骨からほっくりほぐれ、しかもうま味が肉から出切っていないしっとりした感じになります。これをトマトソースとあえながら食べると最高です。
- それにしても、なんでこんなにクドクド長ったらしく書いたかと言えば、辻嘉一さんの文体にいたく影響を受けたからです。でもよく考えたらぜんぜん違う。 格調とか腕とかいろいろw
[rakuten:mille-paquets:741328:detail]
- 作者: 辻嘉一
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秋刀魚の瞬間燻製でも作ってみなよ
- 先日お客を招いていろいろご飯を作ったら、思いのほかうまくできたのでレシピを公開します。全体のメニューは以下の五品でした。うち三品紹介予定です。今日は一品目。
- 瞬間燻製というとやたらめんどくさそうですが、そして僕もめんどくさそうと思っていたのですが、やってみたらやたら簡単で、あと片付けもラクで、しかも大層おいしかったです。前菜としてもつまみとしてもよいので、事あるごとに作ってしまいそうです。秋刀魚は三枚に下ろすのがめんどくさいですが、刺身用におろしたやつがあれば楽勝。鍋も網も繰り返し使えるので専用にしてしまうのがよいです。材料は、
- ダメにしてもいい鍋
- ダメにしてもいい金網(鍋にすっぽり入るサイズ)
- 好みのスモークチップ ひとつかみ (うちはサクラ)
- 秋刀魚、鮭(刺身でたべれるやつ) 好きなだけ。ただし網に乗る程度。
- 玉ねぎ 中一個
- レモン 一個
- にんにく 一個
- 以下手順。
- 秋刀魚は三枚におろして、鮭はサクのまま、レモン半個分の絞り汁にくぐらせる。
- 塩をきつめに振って、ラップを掛けて冷蔵庫へ30分
- キッチンペーパーで水気を拭きとり(重要)、網の上に並べておく
- 窓をあけ、換気扇をガンガンまわす
- 古鍋にスモークチップをひとつかみ敷く。
- 鍋をガスコンロに掛け、蓋をして弱火。煙がもくもく出てきたら、火止める。
- 網を鍋の中に素早くいれ、素早くふたする。ふたに穴があいているようなら、濡れたティッシュで蓋をして、密閉する。
- 三分放置。
- 三分経ったら網を出す。鍋は危ないので水を入れてきちんと火を消す。
- 鮭と秋刀魚を平たい容器に入れて、レモン半個分を絞る。オリーブオイルを魚がひたひたになるようにまわしかける。上からスライス玉ねぎをどっさり乗っける。
- 入れたいスパイスがあればここで入れる。コショウ、ケイパーなど(僕は入れないけど)。
- 半日冷蔵庫で放置。
- 以上で出来上がり。食べるときはそのまま、そぎぎりにして食べてももいいけれど、以下のように工夫すると一段upです。特にはじめのがおすすめ。
- スライスしたにんにくをカリカリにあげたものと、スライス玉ねぎを添えて
- バジルソースで(参照: ワインを飲むために今僕ができるほぼすべて - トビハネインディアン)
- リッツに乗せてケイパーといっしょに
- 鮭は市販のスモークとは比べ物にならないくらいおいしいです。秋刀魚は油のこってり感とスモークの香ばしさがよくあいます。燻製香に対抗するために、塩はきつめで。ニンニクと相性よし。トマトともあいます。秋刀魚が旬のうちに作りましょう。次回はスペアリブのトマト煮込みパスタ。
車輪の再発明ができる人はすごい人です
- 「自分が考えたアイディアはすでにだれかにやられていて、新しいアイディアは思い浮かばない」というような話をよく聞きますが、それはおこがましいってもんです。
- チラリと思い浮かんだ方法が、「すでににだれかにやられている」と思ったなら、二つの可能性があります。一つはあなたが天才であること。もうひとつは、あなたが蒙昧であって、「すでにだれかにやられている」と思った方法がきちんと理解できていないこと。このどちらかです。99%は後者です。
- 「すでにだれかにやられている」アイディアが、世に知られているということは、それは良いアイディアなのです。良いアイディアなんてそうは簡単に思いつけるものではありません。「新しい分類学習の方法を思いついて、実装してみたら、サポートベクターマシンと同じでしたよ・・・ バプニクむかつく!」などとがっかりしている人がいたら、僕はその人に土下座してもいいです。
- もし、苦労して考案したアイディアが、「すでにだれかにやられている」方法と同じであったなら、がっかりするより喜びましょう。それはあなたが将来、そのだれかさんと同じか、それ以上によいものを作ることができる予兆です*1。
- 小学生の子供が、「重い石と軽い石は同じ速さで落ちるんだよ!!」などと言い出した時に、それはニュートンという人が何百年も前に見つけていたことなんだよ、などという必要がないことは、弁証法的観点からも帰納的だよねー
- どうかな?啓発セミナーとかでお金儲けられるかな?このポジティブさw
*1:別に僕が長年温めていたネタがすでに誰かにやられていたとか、そういうことでは全然ないんです
カラコルムハイウェイの残尿感
- 中国へ北京から入って、陸路で一路西を目指そうと思ったら、新疆ウイグル自治区のフンジュラーブ峠を超えてパキスタンに降りるか、ゴルムドか成都からチベット自治区を経て、ジャンムー(ネパール)に降りるか、どちらしかないです。雲南からラオスに降りて、タイからミャンマー経由でバングラに抜けりゃいいべ、と思うかもしれないけれどそれは無理。ミャンマーのイミグレは決して陸路越境を許してくれない。茶パス(外交官用)持って行ったってきっと無理。アウンサンスーチーさんに軍事政権を倒してもらわんと話が始まらんよあすこの国境は。
- ま、それはいいとして、とりあえず2002年の夏にカラコルムハイウェイでフンジュラーブ超えを志したことについて書きます。ジャンムールートを含めて、そのころにはアジア近辺の陸路国境はだいたいやり終わってたんだけど、このフンジェラーブルートはなんかこう、お得感に欠ける気がして避けてたんだよね。まずインドをすっとばさなきゃいけない。カシュガル越えたらフンザまで降りないといけないから華がないってのが気に食わない。それに旅の終着がピンディーってのもやる気が失せる。
- それでも一応ここを超えとかないと残尿感ありますよやっぱり。沢木耕太郎とかにムダに影響されて胸ときめかす若者とかいるじゃないですか。そういう若者には「おいちゃんも昔は陸路越境が好きでいろいろねえ・・・」とか武勇伝かましたいじゃないですか。でも「当然フンジュラーブも超えたんですよね〜〜」とか逆襲されたら普通に困る。「フンジェラーブも超えてねーのかよwwあのオッさん何気にモグリっス☆」とかいわれたら立ち直れないじゃないですか。
- そんな理由で(ではないのだけど)2002年の夏は高額なパキスタンエアの北京inイスラマバードoutのオープンジョーチケットを買ってフンジュラーブ超えを試みましたよ。チケットは14万円位しましたよ。アホみたいな値段ですよ。北京からウルムチ組んだりまでヘイコラ移動して、新疆をそれなりに楽しんで、あとはフンジェラーブ超えるだけっす〜とか言ってカシュガルで余裕かましてたら、がけ崩れ。ビバ!国☆境☆封☆鎖☆! 復旧の目途立たずですよ。もうアホかと。ついてないこと母を訪ねて三千里のマルコの如し。
- でも僕のなかの壊れてない部分を一番えぐってくれたのは、国境封鎖という事実ではないのです。そのころカシュガルの定番宿のチニワク賓館のドミトリーで同宿してた金井さんですよ。後の「旅行人ウルトラガイド アッサムとインド北東部」の著者ですよ。この方、なけなしの金をはたいてユーラシア大陸のどまんなかくんだりまで来て進退きわまっている僕に、「他人の不幸は蜜の味☆」とのたまいやがってくれました。本当にありがとうございましたw ま、昔一冊だけ書いた僕の本をなぜか読んでてくれたりしたんで許すけど。
- 結果的には、国境封鎖が解除されるのを待てずウルムチまで戻り、そっからイスラマまで飛んで帰りました。学生の身には偉い散財だった。400ドルくらいしたような記憶がある。
- それでもこの年の旅は遠縁つながりが重なった旅で、長く印象に残っている。
- 散々な思いをして帰ったら、学校が火事で焼けていた。2002年てのはそういう夏でした。あれから五年。今年は旅にいけやしない。今なお残尿感は残ったまま。やれやれですよ。
See also,
カラコルム・ハイウェイ - Wikipedia
- 金井さんの本はまごうかたなき名著です。あんなマイナーな(でもないけど)エリアを、旅行情報のみならず、地理・風土・歴史の観点から細大漏らさず紹介しています。読めばわくわくするはず。数寄者ならば。
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