マンゴーツリーレストラン

  • 南インドのハンピというところにマンゴーツリーレストランと呼ばれるレストランがある。いまここに金斗雲がきてくれて、どこへでも一日だけつれてってあげる、というならば、迷わず「マンゴーツリーレストランにつれてって!」というに違いない。
  • ハンピは高原のためか、温度は適度に涼しく、空が高く、穏やかに流れる川があり、川そばには豊富な草原が広がる美しい土地である。見晴らしの良い土地ではあるのだが、唐突に巨石がごろんと転がっているところにハンピの最大の特徴がある。しかも結構な頻度でビルでいえば数階建て相当の巨石に遭遇する。山に登り、あたりを見はらすと、山と林と草原と巨石が適度に交じり合い、ファミコン時代のドラゴンクエストのフィールド画面のような光景が広がる。美しくもちょっとスケール間が狂わされるような非現実的な風景を持つ土地だ。
  • マンゴーツリーレストランはハンピの際を通る河ぞいにある。マンゴーツリーレストランの成り立ちはきわめてシンプルで、まず屋根がない。そして壁と柱もない。野天かといえばそうでもなくて、まず、大体長さ20m位のコンクリートの床がある。床はボート型をしており、河沿いなので船に乗っているようだといえばいえなくもない。そして柱のかわりにマンゴーの木が生えている。ボート型の基礎のふちに沿って、背の高いマンゴーの木が内側に向かって深くせり出すように立ち、葉をたくさん茂らせている。マンゴーの茂みがうまい具合に日よけになっている。夜は涼しく、河の蛍が飛ぶ。
  • マンゴーツリーレストランには明確な席というものはなくて、コンクリートの上になんとなくゴザが敷いてあり、その上になんとなく座る。店員さんがマメに箒で砂を掃いてくれるので床は清潔だ。マンゴーの木にはブランコもつるしてある。このレストランには明確なメニューというものもなくて、コーラとかビールとか、そのような基本的なものがコカコーラの大きなイラストが描かれた冷蔵庫にしまわれており、オーダーすることができる。カレー的な食べ物やナッツ、チョコレートなどを食べている人も見かけるが、これはマンゴーツリーレストランで供しているものではなくて、店の人になんとなくお願いするとなんとなく周辺の店やレストランからやってくるものの様である。
  • もう一つ、マンゴーの季節には、この店の文字通り柱であるマンゴーの木から、マンゴーをもぎ取って食べてもよいのである。勘の良い(まぁ良くなくても)インド渡航経験者はここまでで察しが付いたことと思うけれど、まあそういうスポットなのです。 みーんな、昼寝してるか、ちゃちいラジカセでレゲエをBGMにアレしてるかです。
  • はたして誰が設計したのかわからないが、この借景の極地ともいえる構成とミニマルなサービスは、僕が求める理想のレストランだといえます。ハンピには一番アクセスの良いゴアやバンガロールからでもバスで半日。ゴアやバンガロールに飛行機でくるようなブルジョアはそもそもハンピにはこないであろうことを考えると、日本からハンピへの道は遠いです。僕が金斗雲に乗ってマンゴーツリーレストランに行きたいと思うのは、そういう理由からです。