ひとをわかるってどういうことですか?

  • Kくんからアンダーカレントというコミックを薦められ、貸してもらって読んだ。画風としてはよしもとよしとも、語り口としては保坂和志に通じるものがある。内容については説明したところで何の説明にもならない、というタイプのしみじみしたストーリーです。この本の通奏低音となっているのが、ひとをわかるってどういうことですか?という根源的な問いだ。
  • ねじまき鳥クロニクルでも「人を十全に理解することは可能か」という主題が重視されていた。またねじまき鳥クロニクルは失踪した妻をさがす物語であり、アンダーカレントは失踪した夫を探す物語であり、共通点は多い。
  • 他人を十全に理解できるか、というのは僕にとっては結構重い問いで、なぜ重いかというと、僕は他人を十全に理解できないと考えているからであり、しかも他人を理解できると考えている人にとって、他人を理解できないと考える人と付き合うことは、負担をかけてしまうだろう、と思うからだ。おいしい料理を作りたい、と宣言している人に、完全においしい料理などこの世にはないんだよ、といっているようなものだ。あんまりいいたとえじゃないけど。
  • 相手のことなら手に取るように分かる、というところまで他人と深く理解しあえた経験はまだない。たとえ家族でも。相手のことはわからないのだけど、わからない中に自分の知らない新しいことを発見していくのが面白いのだと思っている。何十年とつれそった夫婦は人を十全に理解したという境地に達するのだろうか?楽しみなような、怖いような。アンダーカレントは、人を全く理解できていなかった、という厳しい暗闇のなかで瞬く、わずかな可能性の明かりを丁寧に書いています。