量子暗号研究者は悪夢を見たか?

  • AliceとBobが暗号化された秘密のメッセージを相互に送りたい場合、盗聴者Eveにいかに暗号鍵を知られずに安全に交換するか、が鍵交換問題である。ここで、”安全”がいったいどの程度安全なのか、というのが問題になる。今のところ、RSAなどの公開鍵暗号の場合、Eveが普通のコンピュータを使う限り、まあ宇宙がなくなるくらいまで計算しても解読はたぶんできないだろう、という程度の安全さである*1. 普通のコンピュータというのは、intelでもベクトルプロセッサでもなんでもいいけれど、まあ普通のプロセッサをつかった普通の計算機、という意味である。
  • RSAの鍵は、二つの巨大な素数素因数分解が高速に計算できれば破れるので、言い換えれば、だれかが素因数分解を超高速に計算できる方法なりプロセッサなりを開発すると、
    • 「博士、博士、ついにできました。スーパー素因数分解マシンが!」
    • うむこれで世界の通信を解読しほうだいじゃ!

ということになる。これが「スーパー楕円曲線マシン」でも「スーパーHASH逆戻りマシン」*2いいわけである。

  • でもそんなマシンはいつか開発されそうだし、それでは困りますよ、ということで、たとえ無限の計算能力があっても解読することのできない量子暗号が,NTTやらNECやらベル研やらで、巨額の研究費をつぎ込んで研究している。これはぶっちゃけていうと、光ファイバーの中を、いろんな方向を向いた光子を送りあうことで、だれにも(たとえこのスーパーなんとかマシンができたとしても)絶対解読できない通信をしよう、ということである。
  • 先日Hotwiredに紹介された論文*3は、「そんな大げさな量子なんとかを使わなくても、電線と電気抵抗と電流計と電圧計があれば、おなじことがずっと安くできますよ」と主張している。それがどんな方法かというのは、以下を参照されたい。あきれるほどシンプルで、概要はオームの法則をならったばかりの中学生でも理解できそうである。

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  • はたしてこの論文の主張どおり、量子鍵交換と同じことがこのKLJN暗号(Kirchoff-loop Johnson-noise暗号)できるかどうか、そして実用性があるかどうかは、わからない。たとえば50Km離れた地点にノイズに対して識別可能な一定量の電流を送るにはかなりの電圧が必要だろうし、どの程度の速度が保障されるのかもわからない。ただし、量子暗号もまだ実用的ではないことは確かだし、KLJN暗号の小規模なシステムならだれでも猛烈に簡単に作れるのも事実である。ホームセンタに行って、抵抗4つ、豆電球二つ、スイッチ二つ、電池と電池ボックス二つ、ストップウォッチ二つ、をかってくれば、できる。
  • 僕が気になるのは、量子暗号研究者が、「やべーKLJNで鍵交換できちゃうよ・・・やべー・・・」と呆然とし、いままでつぎ込んだ研究費のことをおもって悪夢を見たのかどうかである。実際どうなの?教えてエロい人!

*1:computationally secureという

*2:この場合暗号破りじゃなくて証明書偽造かな

*3:Totally secure classical communication utilizing Johnson (-like) Nose and Kirchoff's Law,出展??